原子力発電は、核分裂反応を利用して大量の熱エネルギーを電力に変換する発電方法です。今や世界各国で採用されており、特にエネルギー需要が高い先進国や地質的な制約から再生可能エネルギーの導入が難しい国々で重要な役割を果たしています。
原子力発電の歴史は新しく、日本では約60年前に一般的に発電として活用され始めました。
原子力発電は化石燃料などを使用しない発電方法のため、CO₂の排出が極めて少なく、また、使用した燃料を再処理で再利用できることから、環境を考慮した気候変動対策に貢献できる発電方法として重要視されています。
また、一度の燃料補給で長期間安定して大量の電力を供給できるためエネルギー効率の向上にも長けています。
一方、放射性廃棄物の処理や安全性の確保など解決すべき課題やデメリットも多く存在しており、慎重な選択・管理が必要です。
原子力発電の基本的なしくみ
原子力発電は、核分裂反応を利用した発電方法で、基本的に火力発電と同じ原理を使用しています。
火力発電のボイラーにあたるものが原子炉となり、この中でウランなどの核燃料を核分裂させることにより熱を発生させています。この熱を利用し、水を水蒸気に変え、タービンを回すことにより電気を発電しているのです。
ここでは、原子力発電の基本的なしくみと、核分裂のしくみについて紹介します。
原子力発電の基本構造
出典:日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」
原子力発電の心臓部は原子炉です。原子炉内では主にウランなどの核燃料が連続して核分裂(連鎖反応)しています。
核分裂反応による大量の熱を利用し、水を加熱し蒸気を発生させます。発生した高圧の蒸気はタービンに送られタービンを回転させることにより、連結された発電機が電力を生成します。蒸気はその後冷却されて再び水に戻り、循環するシステムです。
原子力発電で使用される核燃料として、主に濃縮度3~5%のウラン235と濃縮度95~97%の核分裂しにくいウラン238で構成される低濃縮ウランを使用しており、自己制御性があるため、急速に核分裂数が増加しないように制御されています。
また、水や多数の制御棒の設置で核分裂の数をコントロールしており、一定の出力で運転することが可能です。
原子力発電所内の主要な設備
- 原子炉(原子炉格納容器)
核分裂反応が制御されながら行われる場所を指します。日本での原子力発電の場合、主に水を使った「軽水炉」が採用されています。この水は減速材にあたり、軽水炉では冷却材の役割も兼ねているのが特徴です。
- 減速材とは
減速材とは、原子炉内での核分裂の過程でウラン235やプルトニウム239から飛び出た高速中性子の速度を遅くする役割を果たしています。減速材により、高速中性子は熱中性子(遅い中性子)に変換され、ウラン235やプルトニウム239に的確に吸収されるようになり、また、高速中性子は核分裂反応を起こしづらいウラン238に吸収されることにより、安定した速度で連鎖反応を持続することができるようになります。
減速材には主に水(軽水)、重水(重水素を含む水)、黒鉛が使用されており、原子炉の構造に応じた減速材が採用されています。
- 冷却材とは
冷却材とは、原子炉内で生成された熱を吸収し、蒸気タービンへと運ぶ役割を担っています。
この過程で冷却材自体は核分裂反応により発生した熱を吸収し、その熱エネルギーを利用してタービンを回転させるために必要な蒸気を生成します。
水は最も広く使われている冷却材で、物理的・化学的性質が高温高圧下でも最も安定しているため、ほとんどの原子力発電で採用されています。一方より高い熱効率を求める高温ガス炉や高速増殖炉では液体金属(ナトリウムや鉛ビスマス共晶合金など)が用いられることがあります。
- 制御棒
制御棒は、中性子を吸収する材料で作られており、原子炉内の核分裂反応を制御するために使用されています。
制御棒を上下させる(炉心内の体積を増減させる)ことにより、原子炉内の中性子の数を調整し、核分裂反応を減速させたり停止させたりすることができます。また、緊急時にはすべての制御棒を一斉に原子炉に挿入することで、核分裂反応を急速に停止させることができます。
一般的に制御棒に使用される材料には、ホウ素、カドミウム、銀-インジウム合金および銀-カドミウムなどがあります。これらの材料は、中性子捕獲断面積を持ち中性子を効率的に吸収します。
- タービン
原子炉の核分裂反応によって発生した熱エネルギーは、冷却材を加熱し、高温高圧の蒸気を生成します。この蒸気は蒸気タービンに輸送され、タービン内の多段のプレートに衝突することによりタービンが回転します。以上により蒸気の熱エネルギーが機械的なエネルギーに変換されます。
タービンは通常、低圧タービン、高圧タービンの複数段階に分かれており、上記のエネルギーを最大限に活用できるように設計されています。
- 発電機
発電機は、原子力発電における最終的なエネルギー変換装置として、電気エネルギーを生成する重要な役割を果たしています。
高温高圧の蒸気がタービンを回転させることにより、発電機に直結されている回転軸が駆動し、電気となるのです。
発電機は電磁誘導の原理を利用し電流に変換しています。
- 復水器・冷却塔
復水器の主な役割は、タービンを通過した後の蒸気を冷却し、再利用可能な水に戻すことです。これにより、冷却された水は再び原子炉に輸送され、加熱されることにより蒸気となるサイクルを繰り返します。
核分裂のしくみ
出典:日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」
原子力発電における核分裂のしくみは、核燃料であるウランやプルトニウムの原子核が中性子と衝突することで分裂し、大量のエネルギーを放出します。軽水炉型の原子力発電ではこの熱エネルギーが減速材である水を加熱し蒸発させることにより発電しています。
原子力発電で使用される主要な核燃料はウラン235やプルトニウム239などの、核分裂しやすい原子を使用します。天然のウランには核分裂しやすいウラン235が約0.7%、核分裂しにくいウラン238が約99.3%含まれており、原子力発電ではこの天然ウランのウラン235を3~5%に低濃縮した低濃縮ウランを使用して発電させます。
核分裂反応は、ウラン235やプルトニウム239の原子核に中性子が衝突することにより起こります。衝突した中性子は原子核に吸収され、原子核は分裂します。この分裂により高速中性子が放出されます。
この高速中性子はウラン238に吸収され、プルトニウム239を生成します。生成されたプルトニウム239は中性子と衝突することにより核分裂を繰り返す連鎖反応を起こし、制御棒で中性子の数を制御しながら安定的に分裂反応を維持しています。
この生成されたプルトニウムは、使用済燃料から再処理することにより取り出して再利用することができ、重要なエネルギー資源となっています。
原子燃料のリサイクル
出典:日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」
原子炉で使用された原子燃料は核分裂を終えると使用済み核燃料として再処理されます。使用済燃料の中には、燃え残りのウランや新たに生成されたプルトニウムが含まれており、これらを正しく処理し回収することによって再び燃料として使用することができるようになり、原子力発電のメリットの一つでもあります。
原子炉内で一定期間(通常は3~5年)使用された核燃料は、燃料が劣化するため核分裂の効率が低下します。こうした核燃料は使用済み燃料として原子炉から取り出されます。
使用済み燃料は放射能と発熱が高いため、使用済み燃料プールに移され数年の間冷却されます。この冷却期間中に放射能と熱が徐々に低減されます。冷却後、専用の輸送容器に入れられ再処理施設へ安全に輸送され再処理されます。
出典:日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」
十分に放射能が弱まった燃料は、約3~4cmの長さに細かくせん断され、硝酸で溶かされます。溶かされた燃料はウラン、プルトニウム、核分裂生成物に分離されます。ウランとプルトニウムはそれぞれ精製、脱硝しウラン酸化物とウラン・プルトニウム混合酸化物にし、再利用可能な燃料にするためそれぞれに適した加工施設に輸送されます。
主な原子炉の種類
原子力発電は再生可能エネルギーとして重要視されており、安全性の向上や脱炭素化などのニーズに応えるべく、世界各国で日々先進的な原子力技術への挑戦が行われており、技術は常に進化しています。
原子炉の種類は使用される燃料や減速材、冷却材の違いにより、様々な形に分類されています。各原子炉には独自のメリットとデメリットがあり、適切な選択と運用が求められます。ですが、エネルギー供給の安定性を確保するためには重要な技術となっており、次世代原子炉の開発も日々研究されています。
ここでは、現在日本を中心に世界各国で使用されている主な原子炉の種類を紹介します。
軽水炉
出典:日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」
軽水炉は、世界各国で最も多く採用され、日本でも主に使われている形状です。
減速材および冷却材として普通の水(軽水)を使用している原子炉で、主に沸騰水型軽水炉(BWR)と加圧水型軽水炉(PWR)の2つのタイプがあります。
- 沸騰水型軽水炉(BWR)
沸騰水型軽水炉(BWR)は、核燃料の核分裂反応で発生した熱によって、炉心内の水を直接沸騰させて蒸気を生成します。
沸騰水は炉心内に留まり蒸発し、その蒸気をタービンへ輸送することによりでタービンを回して発電するシンプルな設計です。炉心から直接タービンに蒸気を送るため効率的です。
東日本にある原子力発電所を中心に多く採用されています。
- 加圧水型軽水炉(PWR)
加圧水型軽水炉(PWR)は、原子炉内で生成された高圧高温の加圧水を蒸気発生器に通すことにより、原子炉から送られた加圧水とはまた別の水を沸騰させて蒸気を生成し、タービンを回します。沸騰水型軽水炉と違い、放射性物質がタービンに到達しない設計となっており、安全性が高いのが最大のメリットです。
西日本の原子力発電所を中心に採用されています。
重水炉
減速材に、中性子を含んだ重水素を含んだ水である重水(D₂O)を使用した原子炉です。
重水は軽水よりも中性子を減速させる能力が高いため、自然ウランを燃料として使用することができます。また、軽水よりも中性子を吸収しにくいため燃料効率が良くなるというメリットがあります。
カナダ型の原子力発電所が代表的な重水炉です。
黒鉛炉
黒鉛炉は減速材として、中性子を吸収しにくく減速させる効果が高い黒鉛を使用する原子炉です。燃料として天然ウランや低濃縮ウランを使用して発電します。
黒鉛炉にはいくつかタイプがありますが、商業運転で採用されている例は日本にはなく、主に実験炉として使用されています。
高速増殖炉
高速中性子を利用して核分裂を引き起こし、ウラン238や生成されたプルトニウム239などを燃料として発電する原子炉です。
冷却材にはナトリウムなどの液体金属を使用し、減速材は使用しません。
使用した燃料から約1.2倍の新しい燃料を生成することができるため、資源の有効活用の面から注目されている原子炉ですが、日本では実験炉のほか、事故により停止された「もんじゅ」でのみ採用されています。
高温ガス炉
黒鉛を減速材とし、冷却材として化学的に不活性なヘリウムガスを使用します。非常に高温で運転することが可能なため、高効率の熱利用が可能です。また、炉心の冷却ができない状況になっても原子炉が自然に低下し、炉心融解を起こしにくいという特徴があります。
将来的には水素製造などへの応用も期待されており、現在では安全性を実証する実験が日本原子力研究開発機構で進められています。
原子力発電に用いられる部品
原子力発電所では、安全かつ効率的に核分裂反応を利用して電力を生成するために、原子力圧力容器や原子炉をはじめとする様々な設備に高度な部品が使用されています。個々の部品は原子力発電の性質上、耐放射性、遮蔽性、気密性、保守性など、特に非常に高圧高温となるため、部品一つ一つに高い性能が求められており、安全管理の面で非常に重要です。
ここでは主要な設備、部品についてご紹介します。
原子炉格納容器内
- 原子炉容器
- 原子炉内構造物
- 緊急炉心冷却系統
- 燃料集合体
- 制御棒駆動装置
- 蒸気発生器
- 加圧器
- 1次冷却材ポンプ ほか
タービンシステム
- 低圧タービン最終翼
- 高圧タービン/低圧タービン
- 発電機/励磁機
- 大型補機電動機 ほか
屋外
- 変圧器
- ガス絶縁開閉装置
- 循環水ポンプモーター ほか
その他設備
- 配管およびバルブ
- 制御室
- 原子炉安全保護装置/制御装置
- 制御監視装置
- 放射線監視装置 ほか
当社の原子力部品製作事例
原子力発電におけるボルトやナットなどの小さな部品は、安全で効率的な運転を支える基盤となります。
当社は、これらの重要な部品の製造に特化し、精密かつ高品質な製品を提供しています。
当社が製造する耐熱性と耐腐食性に優れた特殊合金製ボルトは、原子力発電の高温高圧環境下でも高い信頼性を保っています。
また、原子力発電内のタービンや配管システムでは振動や圧力の変動に対する耐性が求められます。当社の製品は、厳格な品質管理と確かな技術により、原子力発電の安全な運転を支えています。
以下、当社にて実際に製作した原子力部品の製作事例をご紹介します。
- 原子力発電所内配管専用部品
原子力発電所内の配管設備に使用する締結部品です。
高温・高圧の過酷な環境下において使用するため、耐熱性・耐腐食性に優れたインコネルを用いています。
加工の難しい難削材に当たる材質ではありますが、高度なノウハウと膨大な実績をにより技術面、品質面で高い評価を頂いております。
弊社の強みである重電部門向けの精密かつ高度な技術を活かした製品です。
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『原子力発電のしくみ』まとめ
原子力発電は、核分裂反応を利用して大量の電力を効率的に生成する技術です。様々なタイプの原子炉が存在し、それぞれが独自の特性と利点を持っています。
原子力発電は核燃料棒や制御棒をはじめ、多くの高度な部品を必要とし、安全かつ安定した電力供給を実現するためにそれぞれが重要な部品となっています。
特に、ボルトやナットのような小さな部品も、信頼性と耐久性が求められ、原子力発電の運転において欠かせない役割を果たしています。
当社は原子力発電関連部品の製造に膨大な実績を有しており、高い品質と精度を保証しております。お困りごとがございましたら、お気軽にご相談ください。
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