姫路第二発電所 出典:関西電力
火力発電は、化石燃料(主に石炭、石油、天然ガス)を燃焼させて発生した熱エネルギーを利用して電力を生み出す発電方法です。国内で最も発電量が多く、日本では19世紀後半に導入されました。人口増加に伴う電力需要の拡大に応じて、全国各地に火力発電所が設置されました。
20世紀の初頭から中頃にかけては水力発電が主流でしたが、石油や石炭による火力発電の拡大により、再び火力発電が主要な電力供給手段となりました。経済産業省資源エネルギー庁の「令和4年度(2022年度)エネルギー需給実績の取りまとめ」によると、国内の火力発電による電力供給は全体の72.8%を占めています。
火力発電のメリットは、燃料があれば安定して発電を続けられることです。しかし、その一方で、発電時に大量の温室効果ガスを排出するという大きなデメリットがあります。地球温暖化が深刻な問題となっている現在、火力発電については高効率化や水素の活用など、脱炭素への取り組みが求められています。
火力発電の基本的なしくみ
竹原火力発電所 出典:J-POWER
火力発電とは、化石燃料(主に石炭、石油、天然ガス)を燃焼させて発生した熱エネルギーを利用して電力を生み出す発電方法です。火力発電では、燃料を燃焼させて得られた熱で水を蒸気に変え、この蒸気を発電機につながった大きなタービンに勢いよく当てて回転させることで電気を生成します。
ここでは、火力発電の基本的な仕組みについて紹介します。
火力発電の基本構造
火力発電では、ボイラーで化石燃料を燃焼させ、その熱を利用して水を蒸気に変えます。この蒸気は非常に高温かつ高圧で、大きなエネルギーを持っています。このエネルギーを利用して、タービンという機械を回転させます。タービンには蒸気の力で回転する無数の羽根があり、この回転力を発電機に伝えることで電気を生成します。発電機内では、磁場の中でコイルが回転することで電流が発生し、それが電力となります。こうして作られた電気は、変圧器を通して適切な電圧に変換され、送電線を通じて家庭や工場などに供給されます。
また、タービンを回した後の蒸気は、復水器という装置を通して水に戻されます。この水は再びボイラーに送り返され、再び蒸気となってタービンを回すという循環が繰り返されます。このように、火力発電は蒸気を何度も再利用する効率的なシステムです。
火力発電所の主な設備
- ボイラー
ボイラーは、火力発電所の中心的な設備で、燃料を燃焼させ、その熱を利用して水を高温・高圧の蒸気に変える装置です。ボイラーで生成された蒸気はタービンを回転させるためのエネルギー源となり、発電効率に大きな影響を与えます。
- ガスタービン
ガスタービンは、天然ガスや灯油などの燃料を燃焼させ、その高温高圧の燃焼ガスを直接利用してタービンを回す装置です。ガスタービンは単体でも発電が可能ですが、コンバインドサイクル発電(ガスタービンと蒸気タービンの組み合わせ)で使用されることが多く、高い発電効率を実現します。
- 蒸気タービン
蒸気タービンは、ボイラーで生成された高温高圧の蒸気を利用して回転運動を生み出す装置です。この回転運動が発電機に伝わり、電気が生成されます。蒸気タービンは、火力発電所のほか、原子力発電所でも使用される主要な発電設備です。
- 発電機
発電機は、タービンの回転運動を利用して電気を生成する装置です。タービンのシャフトと連結されており、タービンの回転力が発電機の内部コイルを回転させることで、電磁誘導によって電力が発生します。
- 復水器
復水器は、蒸気タービンを回転させた後の蒸気を冷却して水に戻す装置です。このプロセスにより、蒸気が再びボイラーで加熱されて循環再利用されます。復水器の冷却には通常、海水や川の水が使用されます。
- 冷却塔
冷却塔は、復水器で使用された冷却水を再び冷やすための装置です。冷却塔から放出される水蒸気により、復水器で蒸気を効率的に水に戻すことが可能になります。これにより、冷却水が再び復水器で使用できるようになります。
- 煤煙処理設備
排煙処理装置は、ボイラーやガスタービンから発生する排煙中の有害物質(硫黄酸化物、窒素酸化物、粉塵など)を除去するための装置です。これにより、大気汚染を防ぎ、環境への影響を最小限に抑えます。
火力発電の主な燃料
- 石炭
石炭は、火力発電で最も古くから使用されている燃料の一つです。石炭は大量に存在し、比較的安価で入手可能であるため、多くの国で火力発電の主力燃料として使用されています。石炭火力発電は、石炭を粉砕してボイラーで燃焼させ、その熱で水を蒸気に変え、蒸気タービンを回して発電します。
- 石油
石油は、特に20世紀中頃から広く使用されてきた燃料です。石油火力発電所では、軽油や重油などの石油製品をボイラーで燃焼させ、その熱で蒸気を生成し、蒸気タービンを回して電力を発生させます。石油は石炭よりもクリーンに燃焼しますが、価格が高くなる傾向があります。
- 天然ガス(LNG)
天然ガスは、火力発電において最もクリーンな燃料とされています。天然ガス火力発電所では、ガスタービンを使用して発電する場合と、ボイラーで水を蒸気に変えて蒸気タービンを回す場合の2種類があります。また、天然ガスを使ったコンバインドサイクル発電(ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた発電方式)も一般的です。
火力発電の特徴
- 安定した電力供給
火力発電は、燃料の供給が途絶えない限り安定して電力を供給できるため、ベースロード電源(基本電源)として使用されることが多く、日常的に必要とされる電力を常に供給する役割を果たします。
- 出力調整の柔軟性
火力発電は、電力の出力を比較的容易に調整できるため、需要の変動に対応しやすいです。特にガスタービン発電は起動が速く、ピーク電力供給や緊急時の電力需要に迅速に対応できます。
- 自給が困難で燃料の国際価格の影響を強く受ける
ノルウェー、オーストラリア、カナダ、アメリカは自国で使うエネルギーを自給できる状況にあります。それに対して、日本のエネルギー自給率はわずか13.3%と非常に低く、燃料を自給することが困難であり、国際価格の影響を強く受けます。化石燃料の価格は市場の状況や地政学的要因によって変動するため、燃料コストの変動が発電コストに大きく影響します。特に、石油価格の急上昇などは火力発電の運転コストを増加させる要因となります。
- 二酸化炭素や窒素酸化物(NOX)、硫黄酸化物(SOX)の排出対策が必要
日本の温室効果ガス排出量の約84%をエネルギー起源CO2が占めています。エネルギー起源CO2とは、火力発電によって生み出される二酸化炭素のことです。温室効果ガスは地表から放出される熱を吸収し、地球の平均気温を上昇させてしまいます。
地球全体の平均気温が上昇することを地球温暖化といいますが、産業革命前に比べると地球の平均気温は約1.09℃上昇しています。工業化などの人間活動が原因であり、火力発電もその一因とされています。
気温の上昇は、降水量の増加や海面水位の上昇、北極や南極周辺の海氷の減少を引き起こしています。さらに、温暖化は極端な高温や異常気象をもたらすと予測されています。
主な火力発電の種類
磯子火力発電所 出典:J-POWER
火力発電には、使用する技術や燃料の種類によってさまざまな方式があります。ここでは、代表的な火力発電の種類である汽力発電、内燃発電、ガスタービン発電、そしてコンバインドサイクル発電について、その特徴や仕組みを詳しく解説します。
汽力発電
汽力発電とは、火力発電の中でも主力となる方式で、蒸気の膨張力を利用した発電方法です。
汽力発電では、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を燃焼させてボイラーで水を加熱し、高温・高圧の蒸気を生成します。この蒸気が蒸気タービンに送り込まれ、タービンの羽根を回転させ、その回転力で発電機を駆動し電力を生み出します。使用した蒸気は復水器で水に戻され、再びボイラーに送り返されて再利用されます。また、高温の蒸気を冷却するために大量の水が必要であるため、多くの発電所は海岸近くに設置されています。
内燃発電
内燃発電とは、ディーゼルエンジンやガスエンジンなどの内燃機関を用いて発電する方法です。エンジン内部で燃料を燃焼させ、その燃焼によって得られる高温・高圧の燃焼ガスを使ってピストンを動かし、そのピストン運動を回転運動に変えて発電機を駆動する仕組みです。この方法は立ち上がりが速く、需要の変動に迅速に対応できるため、ピーク電力供給に適しています。主に、ディーゼルエンジン発電とガスエンジン発電の2つのタイプがあります。また、小型でありながらも高出力の発電が可能なため、スペースを取らずに発電でき、飛行機のジェットエンジンにも使用されています。
ガスタービン発電
ガスタービン発電は、天然ガス(LNG)や軽油などの気体燃料や液体燃料を直接燃焼室で燃焼させ、発生した高温高圧の燃焼ガスを使ってタービンを回転させる発電方法です。ガスタービンエンジンの回転力で発電機を駆動し、電力を生成します。この方法は立ち上がりが速く、需要の変動に迅速に対応できるため、ピーク時の電力供給に適しています。
コンバインドサイクル発電
コンバインドサイクル発電とは、ガスタービン発電と汽力発電を組み合わせた発電方法です。
まず、ガスタービンで発電を行い、その排熱(高温の排気ガス)を利用して水を蒸気に変え、蒸気タービンを回して追加の発電を行います。2つのタービンを同時に回すことで、同じ量の燃料でも他の火力発電方式より多くの電力を生成することができます。エネルギーを効率的に利用できるため、燃料消費を抑え、環境への負荷も比較的少ないのが特徴です。
出典:四国電力
火力発電に用いられる部品
火力発電所では、安全かつ効率的に燃料を燃焼させて電力を生成するために、ボイラーやタービンをはじめとするさまざまな設備に高度な部品が使用されています。これらの部品は火力発電の性質上、耐熱性、耐圧性、気密性、耐久性などが求められ、特に非常に高温高圧となるため、一つ一つの部品に利用する材料から機構・形状の設計まで、安全性を担保可能な高品質な設計が求められます。また、耐熱性・耐圧性を満たす材料の加工は難しくなる場合が多いです。特に、弊社も行っている切削加工においては、インコネルやニッケル基合金などをはじめとした耐熱合金は難削材と呼ばれ、硬く、加工時の熱が逃げないため削ることが難しく、加工のノウハウが必要となります。
ここでは、火力発電の主要な設備と部品についてご紹介します。
ボイラー
- 燃焼室
- 燃料バーナー
- 蒸気ドラム
- 過熱器
- 給水ポンプ ほか
タービン
- 低圧タービン最終翼
- 高圧タービン/低圧タービン
- 発電機/励磁機
- 大型補機電動機 ほか
復水器
- 冷却水ポンプ
- エアエジェクター
- 排水ポンプ ほか
屋外
- 冷却塔
- 煙突
- 燃料貯蔵タンク ほか
その他設備
- 変圧器
- 排煙処理装置
- 緊急停止装置 ほか
当社の火力発電製作事例
火力発電におけるボルトやナットなどの小さな部品は、安全で効率的な運転を支える重要な基盤となります。
当社は、これらの重要な部品の製造に特化し、精密かつ高品質な製品を提供しています。
当社が製造する耐熱性と耐圧性に優れた特殊合金製ボルトは、火力発電の高温高圧環境下でも高い信頼性を保っています。
また、火力発電内のタービンやボイラーシステムでは振動や圧力の変動に対する耐性が求められます。当社の製品は、厳格な品質管理と確かな技術により、火力発電の安全な運転を支えています。
以下、当社にて実際に製作した火力発電所向け部品の製作事例をご紹介します。
- 火力発電所内配管専用部品
火力発電所内の配管設備に使用する締結部品です。
高温・高圧の過酷な環境下において使用するため、耐熱性・耐腐食性に優れたインコネルを用いています。
加工の難しい難削材に当たる材質ではありますが、高度なノウハウと膨大な実績により技術面、品質面で高い評価を頂いております。
弊社の強みである重電部門向けの精密かつ高度な技術を活かした製品です。
『火力発電のしくみ』まとめ
赤穂発電所 出典:関西電力
火力発電は、化石燃料(石炭、石油、天然ガスなど)を燃焼させ、その熱エネルギーを利用して大量の電力を効率的に生成する技術です。火力発電にはさまざまなタイプがあり、それぞれが独自の特性と利点を持っています。
火力発電所は、ボイラーやタービン、発電機をはじめ、多くの高度な設備と部品を必要とし、安全かつ安定した電力供給を実現するためにそれぞれが重要な役割を果たしています。
特に、ボルトやナットのような小さな部品も、耐熱性と耐圧性が求められ、火力発電所の運転において欠かせない役割を果たしています。
当社は火力発電関連部品の製造に豊富な実績を有しており、高い品質と精度を保証しております。火力発電に関するお困りごとがございましたら、お気軽にご相談ください。
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